尻ぬぐいの依頼
スーパーバイザー 倉林秀光
この業界で長いこと働いていると、時々、尻ぬぐいのような仕事が入ることがあります。簡単にいうと、別のライターが書いたものの原稿のクオリティがイマイチなので、商業出版のレベルに達するよう書き直してほしいというものです。
これは、ある意味、出版社に私の実力が認められ、信頼されている証しでもあるので、ありがたいことなのですが、手放しでは喜べません。
なぜなら、期間が短いこと。
「出版の予定が決まっているので、どうにか20日間で仕上げていただきたいんです!」
こんな具合に、突然、担当編集者から泣きつかれることがしばしばあります。
でも、私はその著者や本の内容に関することを、その段階ではほとんど知りません。最低でも、膨大な資料を読みこんで、ある程度理解してからでないと書き始められません。しかも、前任のライターよりも、明らかに良い原稿に仕上げなければならないのですから、プレッシャーは半端ではありません。
何より重圧を感じるのは、短期間で仕上げなければならないこと。
とくに私は納期を必ず守るタイプ。というより、どんな理由があろうとも、納期を遅れたことは一度としてありません。これは性分というものなのでしょう。しかし、この性分が災いして、より一層のプレッシャーがかかってくるのです。
最近もそんな依頼が、某大手出版社からありました。
「ライターに書き直させたんですが、どうも出来が悪く、困ってしまって……。倉林さんを見込んで、何とか二週間強でやってもらえないでしょうか」
そう言われては、引き受けないわけにいきません。
頼まれると、断れないというのも、私の因果な性分です。
でも、そういう大変な仕事を受けると、相手の編集者も恩義を感じてくれ、関係も密になります。
だからこそ、私はこの仕事を長く続けてこられたのかもしれません。