【武士の次のキーワードは牛鍋】
スーパーバイザー 倉林秀光
今回は突拍子もない話から。
幕末に出版社が存在したとしましょう。
「武家のたしなみ」
「武士の品格」
「町民から好かれる武士になるための100の法則」
等々、その出版社が発行する武士をキーワードにした本はどれもヒット。
しかし、その矢先、坂本龍馬の仲介で薩摩と長州が同盟を結び、倒幕の機運が高まりました。
この先、日本はどうなるのだろうか……。
薩長連合軍と幕府軍が戦争を起こす可能性が大だ。
もし、幕府軍が負けたら、武士の世は終焉を迎えるのだろうか……。
新政府によって、世の中はどう変わるのだろうか……。
ひょっとしたら、列強諸国の植民地になる可能性だってある。
こういう先行きが不透明な状況下にあったとして、あなたがその出版社の編集者だとしたら、どんな企画を立案しますか。
幕府が倒れて、武士の世が終わりをつげたら、今までのように武士をキーワードにした本は売れなくなります。
さりとて、新政府によって、世の中がどう変わるのかもわからないので、「武士」に代わるキーワードが思い浮かびません。
列強諸国の植民地になる可能性があるなら、語学本もありかもしれませんが、外国語を学ぶ人はまだまだ少数だから、本を買う人も限られてしまいます。
これでは、太鼓判が推せるような企画がなかなか立案できませんよね。
実は、今の出版界がまさにそう。
コロナ禍で先行きが不透明な状況下にあって、多くの出版社は「これならいける(いけそう)」という企画を暗中模索しているのが実状です。
これからの時代を見据えた企画が欲しい――そう願いながらも、それが何であるかが的確につかめないのです。
しかし、ピンチこそチャンスとはよくいったもの。
これからの時代を見据えた企画が何であるかわからないというのであれば、編集者ではなく、本を出したいあなたが時代を見据えた企画を積極的に提案していけばいいのです。
冒頭で突拍子もない云々と書きましたが、今までと違って、突拍子もない企画であってもいいのです。
今まで通用しなかった企画が通用する可能性が大なのです。
ちなみに、虚実ないまぜの実の話をすると、薩長同盟(1866年)の締結から1年後、横浜のある居酒屋が牛鍋を提供するようになってから、これが大ブレイク。
それから明治維新にかけて、方々のお店が牛鍋を出すようになり、ついには牛鍋の作り方を説いた本までが出版され、これが飛ぶように売れたという噂もあります。
キーワードが「牛鍋」――幕末には考えられなかった現象です。
さて、令和の現在のキーワードは何でしょう。
あなたが作り出していくのもありかもしれませんよ。