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ランチョン・テクニック

スーパーバイザー 倉林秀光

 

今回は出版の裏話を……。

 

みなさんは「ランチョン・テクニック」という言葉をご存じですか。

「ランチョン・テクニック」とは、グレゴリー・ラズランという心理学者が提唱した「美味しい食事をしながら相手と話をすると、お互い、ポジティブな気分になることで、会話が弾むようになる」という人間特有の心理作用のことをいいます。

実際、政財界の世界でも、このテクニックが用いられているようで、交渉事をお願いしたり、大きな商談をまとめるときは、「食事中に……」という人が少なくないといいます。

 

私が身を置く出版界も例外ではありません。

懇意にしている出版社に打ち合わせに出向いたとき――しかも、時間帯が夕方の場合、私によくこう言ってくる編集者がいます。

「倉林さん。この話(新規の企画の売り込み)のつづきは、軽くお酒でも飲みならがしませんか?」

 

そして、編集者が馴染みにしている居酒屋に行き、乾杯した後、話のつづきをすると、身を乗り出して、真剣に聞いてくれるのです。

もちろん、その場で、企画書にも熱心に目を通してくれます。

 

そして、編集者の口からは、こんなフレーズも……。

「この企画、おもしろいですね。斬新ですね」

「早速、会議に諮ってみます」

「この企画の著者に、一度、会わせていただけませんか」

 

担当の編集者が編集長クラスや編集のトップだったりすると、こんなフレーズが飛び出すことも……。

「この企画、行けます。私の裁量で進めちゃいます」

「倉林さん、この場で(スマホで)、著者に連絡可能ですか。打ち合わせの日取り、今、決められますか?」

 

結論的に言うと、編集者にとっても私にとっても、居酒屋はお酒を飲んで食事を楽しむだけの場所ではないのです。

編集者からすれば「企画を提案してもらう」ための、私からすれば「著者になりかわって、企画を売り込み、検討してもらう」ための、重要な会議の場でもあるのです。

 

 

 

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