文庫をあなどってはならない
スーパーバイザー 倉林秀光
もう5年以上前のことですが、Aさんという経営コンサルタントの企画を某出版社に売り込んだところ、見事、編集会議にパスしたことがありました。
「Aさんも、さぞかし喜ぶだろうな」
そう思い、早速、Aさんに会ってお知らせすることにしました。
ところが、Aさん、なぜか浮かない表情をしています。
その理由を尋ねてみると、「文庫だから」と言うのです。
実はこれはAさんに限ったことではありません。
これまで私は数多くの本をプロデュースしてきましたが、出版社の意向で文庫として出版……という話になると、突然、浮かない表情をする人が何人かいました。
「通常の単行本と異なり、版型が小さいため、存在感があまり感じられない」というのが、大きな要因の一つです。
でも、だからといって、文庫本をあなどってはなりません。
文庫本には単行本にないメリットがいくつもあります。
まず、初版の刷り部数が多い。
単行本は4000~5000部、多くてもせいぜい7000部。
これに対して、文庫本だと初版8000~15000部は刷ります。
次に、文庫本のコーナーがある書店ならば、全国区で置かれやすくなります。
つまり、北は北海道から南は沖縄まで、全国の書店に行き渡る可能性があるのです。
しかも、新刊本の場合は、平積みされます。
この平積みになる確率は、単行本のそれよりも、はるかに高いものがあります。
その結果、“売れる頻度”も自ずと高まっていきます。
そればかりではありません。
文庫本ならば、名刺代わりにも使えます。
相手がキーマンであれば、下手なセールストークを口にするよりも、文庫本を渡したほうが、はるかに訴求力があります。
「できれば単行本を出したい。文庫本はちょっと……」
そう思っている人は、これを機会に文庫本の価値を見なおしてみませんか。