【続・出版と料理】
スーパーバイザー 倉林秀光
前回、出版と料理は似ている点がたくさんあるといいました。
たとえば、ひき肉、キャベツ、玉ねぎ、キューリといった食材があったとします。この材料を使って、2人の主婦が料理を作ることになりました。
主婦Aは即座にロールキャベツを作ろうと決めました。
ロールキャベツは彼女の得意料理だったこともあり、とても美味しくできあがりました。
一方、主婦Bは何を作ったらいいか知り合いのシェフに電話で相談し、冷製ミートローフを作ることにしました。
こちらはキューリなどで飾り付けして清涼感のあるそれなりに美味しい料理になりました。
2人の作った料理を、その場にいた人たちに振舞うと、冷製ミートローフはあっという間になくなり、ロールキャベツの方はだいぶ残ってしまいました。
なぜ、美味しくできたロールキャベツが残ってしまったのでしょう。
理由は気候にありました。
その日は夏の暑い日だったので、熱々のロールキャベツよりも、涼しげな冷製ミートローフの方が食べやすかったからです。
つまり、プロはいろいろな状況を考え合わせて、「何を作ったら最適か」を決めることがあるのです。
また、同じ食材を使ってもまったく違う料理ができあがるのも、プロの知恵。
出版にも同じことがいえます。
出版プロデューサーの私は、著者が持っている食材をさまざまな視点から観察し、社会情勢、人間心理などを考え合わせて検討していきます。
そして、著者が思い描いている構想のほかに、
「こういうテーマにした方がもっと面白いものができるのではないだろうか」
「こういう形にした方が多くの人に受け入れてもらえるはずだ」
といったような意外な提案をさせていただくことも可能なのです。