【これを書くと危険! その1】
スーパーバイザー 倉林秀光
今回はまず事例を紹介しましょう。
知人のAさんは商業出版社から本を出した直後、あることが原因で、出版社が本を回収せざるをえなくなり、たちまち絶版。「あのことさえ書かなければ……」といって大いに後悔したことがありました。
Aさんは40歳・男性の経営コンサルタントで、商業出版社から出した本は人間関係をテーマにしたものでした。
斬新な切り口で、わかりやすく、なおかつ読み応えのある内容でしたが、いったいどこに問題があったのでしょうか。
それは全7章のうち、2つの章で、Aさんが親しくしているブレイク中の男性俳優の例を長々と記述したことが関係していました。
その男性俳優は礼儀正しく、誰に対しても、言葉づかいが丁寧で、ものすごく謙虚。
男性のようになれば、誰からも好かれるようになるので、彼のこういう点を見習おうといった趣旨の内容でしたが、これが裏目に出てしまったのです。
なぜか? その男性俳優は麻薬取締法違反の容疑で逮捕されてしまったからです。
これは当然不祥事。ということは、社会的影響や読者の反応といった倫理的な問題を考慮し、TVでは彼の出演番組は放送されなくなります。
となると、その余波が本にも及び、本も回収せざるをえなくなります。
Aさんが「あのことさえ書かなければ……」といって大いに後悔したのは、このためなのです。
この話を通して、私が言いたいのは、本を書くにあたって、むやみやたらに著名人を実名で出さないほうがいいということです。
芸能人がとくにそうで、スキャンダラスな問題を起こすと、社会的な信用やイメージが大きく損なわれ、それが本にも影響を及ぼしかねません。
したがって、すでにお亡くなりになった方は別として、現役で活躍している芸能人・ブレイク中の芸能人の例を出すのは原則的に控えるか、慎重になったほうがいいでしょう。
これは芸能人に限ったことではありません。
第一線で活躍されている著名な経営者にも同じことがいえます。
実際にあった話ですが、ある著者が、TVにも頻繁にコメンテーターとして出演する著名な経営者の成功法則をテーマにした本を出したことがありました。
ところが、本が出てしばらくしてから、その経営者の会社が倒産。その途端に本の売れ行きが悪くなり、程なくして絶版になってしまったのです。
そりゃあ、そうですよね。会社を倒産させてしまった経営者の成功法則なんて、訴求力がまったくありません。誰だって、そんな本を読みたいとは思いません。
したがって、これもまた、すでにお亡くなりになった経営者は別として、そうでない経営者を実例として出す場合は、慎重を期したほうがいいと思うのです。