ドラマ『ゴーストライター』にみる出版業界の実状
スーパーバイザー 倉林秀光
現在、テレビで放送中の『ゴーストライター』という連続ドラマをご存知でしょうか。
これは、昨年、世間を騒がせた音楽業界を背景にしたものではなく、出版業界が舞台になっている話です。
ストーリーの概要は、スランプに陥った人気女性作家の代わりに、無名の一般女性が小説を書くというものです。
面白いのは、フィクションの中にも、出版業界をリアルに描いている箇所が所々で見受けられることです。
その1つが、出版社に、無名の女性が自分の書いた小説を持参した時のシーン。
ドラマでは、受付嬢から「当社では持ち込み原稿は、お受け取りできないことになっております」と言われ、女性は原稿を突き返されてしまいます。
これは、ほとんどの出版社で行われている実際の対応でしょう。
残念ながら、何のコネもない一般の人が書いたものは、出版社に持っていっても受け取ってもらえないのが現実です。また、原稿を郵送した場合も返却されるか、誰にも目を通されずに廃棄されてしまうことがほとんどだといいます。
でも、このドラマでは、その後、女性は偶然にも一人の編集者の男性に小説を読んでもらうことができ、内容も評価されました。ところが、編集者は若手の平社員。発言力がないため、出版にこぎつけることはできず、編集長に一蹴されておしまいでした。
これ、リアルでは、ここまでいくのでも運がいい方だと思います。通常は、編集者に原稿を受け取ってもらえたとしても、一瞥もされずにゴミ箱に直行がいいところ。
なぜ、私がこうハッキリ明言するかというと、実は親しくしている某大手出版社の編集者から、その辺のことをいろいろ聞いているからです。
その人曰く、「全国から送られてくる素人さんからの原稿は、毎日、たくさん届きます。でも、99.9%が酷い駄作なんですよ。そのすべてに目を通していたら、時間的にも精神的にも仕事になんかなりません。だから他の出版社でも受け付けを拒否していると思います」
つまり、一般の持ち込み原稿の中から、良い原稿を見つけ出すのは、広大な砂漠に紛れた小さな一粒のダイヤを探し出すほど困難な作業のため、原則的に一般の人の書いた持ち込み原稿は受け付けてもらえないというわけです。
さらに言うなら、実績のない若手編集者が推薦するものよりも、編集長クラスが推すものの方が本になりやすいというのも現実でしょう。
ところで私は、その出版業界で30年ほど生きてきて、いろいろな出版社の編集者の方たちと一緒に仕事をさせていただきました。その中には、現在、編集長になっている人をはじめ、役員クラスにまで上り詰めた人もいらっしゃいます。
その方たちから、
「良い企画があったら、ぜひお願いします」
「今、ウチでは新人の著者候補を探しているんですですが、誰か良い人いませんか?」
といったことを、よく言われます。
それは何故でしょうか。
ひと言でいうなら、私のことを信頼してくださっているからなのかもしれません。
「倉林さんが持ってくる企画なら、それなりにクオリティの高い、面白いものだろう」
「倉林さんが薦める著者候補だったら、一度、会っておきたい」
と思ってくださるからなのでしょう。
これも、長年仕事をする中で培われた信頼関係のお陰です。
そうしたこともあって、私は素晴らしい企画を持っている著者候補の人と、良い出版企画を求めている編集者の間を取り持つようにしています。
そして、それが「出版の実現」という成果を生み出し、運が良ければベストセラーへと発展していく……。
そうやって、関わったすべての人が笑顔になるような出版プロデュースという仕事に、私は使命感を抱いているのです。