【出版プロデュースの仕事 その2】
スーパーバイザー 倉林秀光
「私にはこういう思い(貴重な体験)がある。本を通して、是非とも、そのことを伝えたい」
こう言って、私のコンサルを受けにこられる方がたまにいらっしゃいます。
しかし、「なるほど素晴らしい。これは是非とも本にしましょう」と、私がクビを縦に振れるのは、五人に一人いるかいないか程度です。
なぜだかわかりますか?
ズバッと言わせてもらうと、第三者的に見て、その方の思い(貴重な体験)がそれほどたいしたことのないように思えるからです。
人は誰にでも思い入れというものがあります。
著者(候補)の人ならば、なおさらのこと、それが強くなります。
けれども、それが度を越すと、まわりが見えなくなります。
そうなると、完全に「ひとり相撲」を取っている状態。
いや、まだ出版社にとって、企画としてもおもしろさ、言い換えると、商品価値があるなら話が別です。
ところが、思い入れが強い著者(候補)の人に限って、そういう問題意識など微塵もありません。
あるのは、ただただ「自分の思いを世の人たちに伝えたい」。
それだけ。
でも、思いを伝えるだけならば、今の時代、SNSだけで十分ですよね。
それでも飽き足らなければ、小冊子を作って配る方法もありますよね。
「本を出したいけれど、商業出版社がどこも相手にしてくれない」
「どこの出版社に企画書を提出してもパスしない」
そういってお嘆きの方は、そのへんのことを一度足元から見つめなおしてみてはいかがでしょう。
あなたにとってはすごいことでも、他人からすればたいしたことがない。
あなたにとっては感動することでも、他人はそれほど感動しない。
あなたにとっては貴重な体験であっても、他人にしてみれば、ありきたりの体験にすぎない。
このように、あえてネガティブに考えることで、自分の思い(企画)を、上から、下から、横から、斜めから……と、あらゆる角度で見直してみるのです。
そうすれば、今まで気づかなかったこと、見落としていたこと、忘れていたことが見えてくるようになります。
その方向に誘導していき、著者(候補)に心をリセットしてもらうことも、出版プロデューサーの大切な仕事であると、私は考えているのです。