「風が吹けば、桶屋が儲かる」に学ぶタイトルの付け方
スーパーバイザー 倉林秀光
「風が吹けば、桶屋が儲かる」ということわざがあります。
この言葉の意味、すなわち、風が吹くと桶屋が儲かる理由を手短に述べると次のようになります。
1.強い風が吹くと、土ぼこりが立つ。
2.土ぼこりが目に入ると、目を患い、盲目の人が増える。
3.盲目の人は、三味線弾きで生計を立てようとする。
4.そのため、盲目の人の多くは三味線を買おうとする。
5.それによって、三味線の需要が増える。
6.三味線は猫の皮を使ってつくるので、三味線の需要が増えれば増えるほど、猫の皮の需要も増える。
7.そのため、たくさんの猫が殺される。
8.それによって猫が減る。
9.猫が減れば、ネズミが増える。
10.増えたネズミは桶をかじる
11.桶がダメになるため、新品の桶が必要になる。
12.それによって、桶が飛ぶように売れ、桶屋が儲かる。
なんとも、まわりくどい話ですが、ここからが本題。
もし、「風が吹けば、桶屋が儲かる」以外にタイトルをつけるとしたら、皆さんならばどういうタイトルを付けますか?
こういうと、次のようなタイトルを考える人もいると思います。
■ネズミが桶をかじると、桶屋が儲かる
でも、ストーリーを知っている人からすれば、なんとなくありきたりですよね。
いまいち面白さがありません。インパクトに欠けます。
それは意外性がないからです。
言い換えると、9~12の核心――「結果」の部分にしか着目していないからです。
ところが、1~6の部分、すなわち「原因」や「過程」の部分に着目すれば、「盲目の人」「三味線」といったキーワードもタイトルの候補として浮上し、次のように意外性のあるタイトルも生まれます。
■盲目(三味線弾き)の人が増えると、桶屋が儲かる
出版の世界も例外ではありません。
出版企画書にタイトルをつけるとき、「結果」の部分だけではなく、「原因」「過程」の部分にも意識を向けるといいと思うのです。
私が拙著『イヤな仕事は絶対するな!』を著したときがそうでした。
この本は、天職中の天職である“いのちの仕事”に目覚め、それをいかにして見つけ出すかを説いたものです。
しかし、そのことをストレートにタイトルに現わしてもインパクトがありません。
そこで、校正のゲラの段階で、文章を読みなおしていったところ、前半部分で次のような記述をしていることに改めて気付きました。
「やりがいのない仕事は所詮いつまでたってもやりがいを感じることはできないのです」
そのことを担当編集者に伝えたところ、こんなやり取りになりました。
「やりがいのない仕事はイヤでイヤでたまらない仕事ですよね」
「そう。そういう仕事は就かないほうがいいということです」
「イヤな仕事は就くな……ですね」
「そう。絶対にね。それが“いのちの仕事”に就くための前提条件です」
「イヤな仕事は絶対就かないほうがいいか……」
こうして決定したタイトルが『イヤな仕事は絶対するな!』なのです。
同じことは、みなさんにもいえます。
タイトルをつけるとき、私たちは往々にして「結果」の部分、起承転結でいうところの「転」と「結」に目が行きがちです。
しかし、その部分だけに固執していると、ありきたりのタイトル、面白味のないタイトル、インパクトに欠けるタイトルしか思い浮かばくなることがあります。
そこで、そういうときは「原因」や「過程」、起承転結でいうところの「起」や「承」にも目を向けてみるのも方法です。
そうすれば、「風が吹けば、桶屋が儲かる」のように、実に意外性のある、それでいて人を惹きつけるタイトルが思い浮かぶかもしれません。