【本のテーマはどう決めるか?】
スーパーバイザー 倉林秀光
豊臣秀吉がタイムスリップして、現代に現れたとします。
さて、あなたが編集者で秀吉を著者に仕立てるとしたら、どういうテーマの本を手がけたいですか。
おそらく、テーマは無限大だと思います。
人たらしの名人と呼ばれた観点からいえば、処世術や人間関係をテーマにした本もありです。
墨俣の一夜砦を築いた観点からいえば、仕事術をテーマにした本もありです。
本能寺の変をいち早くキャッチした観点からいえば、情報収集をテーマにした本もありです。
本能寺の変から、わずか10日ほどで、信長の仇・明智光秀を討った観点からいえば、行動力の強め方やチャンスのつかみ方をテーマにした本もありです。
ゼロから巨万の富を築いた観点からいえば、成功哲学をテーマにした本もありです。
城づくりの達人という観点からいえば、建築をテーマにした本もありです。
このように、どんなテーマもありの秀吉ですが、私なら今の社会情勢を鑑み、「コロナ禍の時代、どう生きるか?」という人生論の企画を、豊臣秀吉著ではなくて、木下藤吉郎著で考えます。
秀吉が木下藤吉郎と呼ばれていた戦国末期(1560年代)は、全国各地で疫病が蔓延し、貧困にさいなまれる人がたくさんいました。
また、戦国時代が終焉を迎え、近代に突入しようとする大きな転換期でもありました。
その時代、藤吉郎は何を考え、どう生きたか?
現代社会と相通じる部分があるとしたら、現代人はどう考え、どう生きるべきか?
そんなことを語ってもらいたいのです。
なぜ、こんな突拍子もない話をしたかというと、テーマを策定する場合(とくに書きたいテーマがたくさんある場合)、時代に即したテーマに意識を向ける必要があるからです。
バブル経済がピークに達した時代は、お金(投資)をテーマにした本がよく売れました。
年功序列制度や終身雇用制度が崩壊したときは、仕事探しや仕事術をテーマにした本がよく売れました。
メタボリックシンドロームという言葉が飛び交ったころは、健康本がよく売れました。
では、今はどんな本が売れると思いますか?
在宅勤務(テレワーク)、オンラインミーティングが普及しつつある今、多くの人の意識は「働き方改革」に向けられています。
コロナ禍をどう乗り越えるか、どう生き残るかで、どの人も必死です。
そんな激動の時代にフィットしたテーマを、自分の強みと照らし合わせながら策定する。
これも商業出版社から本を出すうえで大切なことなのです。