【こういうタイトルはNG その1】
スーパーバイザー 倉林秀光
出版が決まった場合、本のタイトルは通常出版社の編集者が決めます。
それでも、なかには「著者の先生も一緒になって考えていただけますか?」「いくつか、候補を出していただけますか?」と言ってくる編集者もいます。
それが、そのまま採用されることは、滅多にありませんが、編集者にとって大きなヒントにつながる場合がけっこうあります。
逆に、「何? このタイトル?」と、思わず苦笑されたり、軽べつされてしまうモノもあります。
では、苦笑されたり、軽べつされてしまうタイトルとはどういうものなのでしょう。
まずは、私自身のちょっとした体験談からお話しましょう。
以前、私は高校時代の親友と「たまには一杯やろう」ということで、紀伊国屋書店・新宿本店の1F・エスカレーターの前で待ち合わせをしたことがありました。
数年ぶりに再会を果たした友人は、開口一番、私にこう言ってきました。
「倉林! ちょっとお前にお願いしたいことがあるんだけど……」
「なに?」
「実はさあ、お金を渡すから、この紙に記したタイトルの本を買ってきてほしいんだ」
「なぜ、オレが買うんだい? 自分で買えばいいじゃないか」
こう私が尋ねると、友人はいわく、「ほら、見てのとおり、オレってハゲているだろう。だから、本をレジに持っていくのが恥ずかしいんだ」
友人から手渡された紙を見ると、そこには「数週間でみるみるハゲが治る」みたいなタイトルの本が書かれてありました。
「なるほど、そういうことか……。こういう本は確かにレジに持っていきにくいな」
納得した私は、彼からお金を受け取り、早速、戸棚からその本を取り、レジに持っていこうとしました。
すると、私まで不条理な錯覚に陥り、こんな思いにかられ、戸惑ってしまったのです。
「なんだか、こんなタイトルの本をレジに持っていったら、自分までハゲだと思われそうだな。髪の毛はフサフサしているけど、『この人、ひょっとしたら、カツラかしら……』と思われたらどうしよう……」
この話を通して言いたいのは、「ハゲ」をはじめ、「不妊症」「インポ」「貧乳」「わきが」といった身体のコンプレックスを表すタイトルがついた本は、レジに持っていきにくいということです。
その根底には、
「レジの店員にインポと思われたらどうしよう……」
「レジの店員から、不妊症と思われるのがイヤだ」
という思いがあるからであり、その結果、内容がどんなに素晴らしくても、書店での売れ行きが悪くなってしまうのです。
これは身体に限ったことではありません。
どんなテーマ・内容の本であれ、コンプレックスを感じさせるネガティブなタイトルはつけない。
むしろ、ポジティブなタイトルをつける。
これが、タイトルをつけるうえでのポイントになるのです。